モーターの電気的点検|絶縁測定・電流測定・抵抗測定で異常を発見する方法について

工場設備や産業機器でとても重要な役割を担っている「モーター」。
モーターは長期間の使用による経年劣化や、過負荷運転が続くことで、絶縁低下や過電流などのトラブルが発生することがあります。
こうしたモーターの異常を早期に発見し、故障による設備の緊急停止を防ぐ為には、定期的なモーターの”電気的“点検が非常に重要です。
この記事では、電気点検によってモーターの不調を見つけるにはどうすればいいのか、現場でできる点検方法について詳しく解説していきます。

今度は電気保全担当者目線での点検方法だね!

電気と機械、両方の観点から判断してくことが大事ですよ
“電気的”点検ってどんなところを見るの?

電気保全の担当者が行う、いわゆるモーターの”電気的”点検において、いったい何を見て良し悪しを判断するのでしょうか。
その答えは、色々な測定器具で測定して得られた「測定値の変化」です。
例えば、人の体温が平熱の36.5°から38.5°に変化したとき、風邪を引いている(=異常である)と判断すると思います。
これと同じように、モーターの場合も普段の測定値と比べて「高い」もしくは「低い」といった変化があれば、おかしい(=何か異常がある)と判断できるのです。
それでは、具体的に何を測定してその変化をチェックするのでしょうか。
次の項から、モーターの電気的点検で確認すべき代表的な測定項目について解説していきます。
モーターの電気的点検で確認すべき3つの測定項目

ひとつひとつ詳しく解説していきます。
項目①:絶縁抵抗値測定

絶縁抵抗値とは、モーター内部の巻線から、外にどれだけ電気が漏れにくいかを数値で表したものです。
絶縁抵抗値が大きいほど電気が漏れにくい(=絶縁がしっかりしている)状態で、数値が小さいほど電気が漏れやすい(=絶縁が弱っている)状態ということになります。
例えば、水を入れたバケツをイメージしてみてください。

バケツに穴が空いていると、そこから水が漏れて外に流れ出てします。
一方、バケツに痛みがなく正常な状態だと、中の水が外に漏れ出すことはありません。
絶縁抵抗値の測定は、このバケツの”穴の空き具合”を数値で見ているようなもので、これと同じように絶縁抵抗値の数値の変化を見ることで、モーターの絶縁状態の良し悪しを判断することができます。

いわゆる”メガー”ってやつだね

モーターの絶縁抵抗が低くなると、モーターの発熱や焼損だけでなく、漏電による感電災害などのリスクも高くなります。

設備の不具合だけでなく、安全上の問題も発生します!
なお、絶縁抵抗値の測定はモーター巻線だけでなく、モーターブレーキも合わせて行いましょう。
項目②:電流値測定

モーターの電流値測定は、モーターが実際に動作(駆動)しているときに、どれぐらいの電流が流れているかを測定する作業のことです。
この測定を行うことで、モーターに余計な力が掛かっていないか、無理な運転をしていないかを確認することができます。

モーターの過負荷は電流値に即座に現れるよ
もし、普段の電流値よりも大きな電流が流れている場合は、過負荷やベアリング等の不良によって機械的な抵抗が増加している可能性があり、長期間放置するとモーター巻線の過熱によって絶縁劣化を招く原因となります。

規定以上の重さで荷物を運ぶなど、機械の使用上の不備も電流値測定で見抜くこともできます。
電流測定はクランプメーターを使用するのが一般的ですが、インバータが接続されているモーターはインバータの機能を使って電流値を確認することも可能です。

なお、モーターの電流値測定はモーターを実際に動かしながら行う必要があるため、場合によっては動作中の設備に近づかなければならないことがあります。
挟まれ災害等、リスク低減の観点から遠隔で測定作業が可能な測定器具があると非常に便利です。

項目③:抵抗測定

モーターの抵抗測定は、テスターを使用してモーター内部のコイル抵抗を測定する作業のことを言います。

産業用でよく使われる三相モーターの場合は、「U-V」・「V-W」・「W-U」の各相間の抵抗値をそれぞれ測定し、各数値が他の相間と比べてどうかを確認します。

測定した各相間の抵抗値を比較して、どれもほぼ同じぐらいであれば正常と判断できます。
一方で、どれか1つの相だけ抵抗値が異なる場合は、何らかの異常が潜んでいる可能性があり、注意が必要です。

各抵抗値のバラツキは±5%以内が望ましいとされているよ
抵抗測定に関しては、抵抗値が単純に「高い」・「低い」ということよりも、3相とも抵抗値がほぼ同じか(バランスがとれているか)に主眼をおいて点検すると良いでしょう。

前回の記録との比較も非常に大事です!
どんな変化があったら異常の可能性があるの?

測定した数値にどのような変化があったら異常の可能性があるのでしょうか。
以下にまとめました。
絶縁抵抗値の急激な低下

前回測定した絶縁抵抗値は100MΩぐらいだったけど、今回測ったらいきなり10MΩぐらいになってるな。。。💦
このように、過去測定した絶縁抵抗値と比べて数値が大きく低下している場合、モーター内部や配線系統に何らかの不具合が発生している可能性があります。
特に注意すべきなのは、前回前々回とあまり数値が変わっていなかったのに、今回だけ急激に下がっているというケースです。
このような場合、絶縁劣化や巻線損傷などの問題が発生している可能性が高いと考えられます。
ただし、絶縁抵抗値は以下の環境でも低下することがあります。
- 鉄粉やホコリなどが多い環境
- 当日もしくは昨日雨が降っていた
- 周囲で油が飛散している
- 配線が劣化している
- 端子台や電磁接触器など、接続されている機器が劣化している
こららの外的影響を考慮して、総合的に判断しましょう。

モーターの絶縁抵抗値が500MΩ以上しっかりあるな!
このような状態だったら、モーターの絶縁抵抗は問題ありませんね。

「今まで良かったのに、今回だけ急に」みたいな時は要注意だよ!
電流値の急激な上昇

前回の電流値と比べて、今回は明らかに数値が大きいな〜💦
電流値が過去の測定値と明らかに大きい場合は、何らかの機械的負荷によってモーターに負担が掛かっている状態だと判断ができます。
モーターの電流値が上昇する要因は以下の通りです。
内部のベアリングが破損している
モーター内部にあるベアリングが破損すると、軸がスムーズに回転することができなくなり、負荷が増えて電流値が上昇します。

被駆動側の可動部が破損している
モーター本体には問題が無くても、モーターが駆動している車輪などの装置が壊れていると、モーターに負担が掛かり電流値の上昇につながります。
給脂が不足している
装置の各ベアリング・可動部の給脂が不足していると、スムーズな動作が妨げられてモーターが過負荷状態になることがあります。
モーターブレーキの不具合
クレーンや搬送台車など、装置の動きを止めるのにブレーキ装置が使われます。
しかし、ブレーキに不具合があったり、メンテナンスが不十分な状態が続くと、ブレーキが完全に開放されない状態でモーターが動くことになるため、余計な負荷が掛かることになります。


電源電圧の上昇
実はモーターの電流値は過負荷状態だけではなく、装置に供給される電源電圧が上昇するだけでも、モーターの電流値が高くなることがあります。

モーターの電流値は定格電流値以下だし、前回のデータと比べてもあまり変化がないな!
このように、測定した電流値が前回のデータと変化がなければ、モーター及びそれに関連する駆動装置は正常だと判断してよいでしょう。

モーター本体が悪いかどうか判断する方法として、縁を切ってM単(えむたん)するというやり方もあります
各相間抵抗にバラツキがある

V-W間の抵抗値だけ他の相と比べて少ないな〜
モーターのU-V-Wそれぞれの相間抵抗値を測定して、「U-V」・「V-W」・「W-U」どの相間抵抗もほぼ同じ数値であれば、抵抗値は正常と判断できます。
一方で、どれか1つでも他の相より高かったり低かったりすると、モーターのコイルが”アンバランス“な状態になっていることを意味します。
コイルがアンバランスになる原因としては、コイル巻線の経年劣化や絶縁低下、局所的な損傷などが挙げられ、この状態で使用を続けると、モーターの性能低下だけでなく、最悪の場合コイルの焼損といった大きな故障に発展する恐れがあります。
なお、抵抗値の測定はモーターのコイルだけでなく、ブレーキのコイル抵抗も合わせて測定しておくとより効果的です。
ブレーキコイルの抵抗値も定期的に測定を行い、過去データとの比較を行うことで、より精度の高い設備管理が可能となります。

各相のコイル抵抗は、大体105〜106Ωの間におさまっているな!
このように、コイル抵抗が各相とも同じぐらいであれば、3相のバランスがとれた正常な状態だと判断することができます。

同じモーターが2台以上あれば、測定値を比較するなどの判断材料として活用できるよ
まとめ

以上、モーターの異常を発見する方法について、電気的点検の観点から解説しました。
絶縁抵抗測定・電流測定・抵抗測定はいずれも、モーターの異常の兆候を早期に発見できる有効的な手段です。
これらの測定値の変化を過去のデータと比較することで、モーターが発している”異常のサイン”をキャッチすることができ、早めに対処すれば突発的な設備停止を防げる確率が飛躍的に向上します。
設備の安定稼働のためにも、是非電気的点検の手法をマスターし、現場で活用していきましょう。