設備のモータを動かすために広く用いられている「インバータ」。
インバータは入力する電源電圧によっていくつか種類がありますが、次の2種類がよく使われます。
- 三相200V級インバータ
- 三相400V級インバータ
入力電圧が異なっても、見た目にはほとんど違いがない上記のインバータですが、モータを駆動するうえで気を付けなければならない重要なポイントがあります。
それが「インバータの二次側で発生するサージ電圧対策」です。
この記事では、そもそもサージ電圧とは何なのか、200V級と400V級でどのような違いがあるのか、具体的な対策も含めて解説していきます。
なべ400V級のインバータはサージ電圧対策をしっかりと行わないとモータ故障の原因になります!
そもそもサージ電圧って何?


サージ電圧とは以下の様に定義がなされています。
定常運転時の送配電線路において、スイッチの開閉や雷撃などにより送配電線路に瞬間的に定常運転時の電圧を超える過電圧が発生する。この過電圧を サージ電圧という。
引用先:中国電力<技術研究・経済研究・知的財産>【送配線電路における過渡現象(サージ)】
一般的に、「サージ電圧」とは一定の状態で安定して動いているときに、瞬間的にドーンと発生する異常に高い電圧のことを指します。
いきなり発生するカミナリみたいなものですね。
ただし、インバータの二次側で発生するサージ電圧は、一般的なサージ電圧とは少し異なった特徴があります。
インバータの二次側で発生するサージ電圧は”マイクロサージ”と呼ばれる


インバータの二次側で発生するサージ電圧は、瞬間的に大きな電圧が発生するものではなく、モータが動いている間に連続して発生しつづけるというやっかいな特徴をもっています。
このように、細かく発生するサージ電圧を「マイクロサージ」と呼び、これがモータの内部に少しずつ見えないダメージを蓄積させるのです。



このマイクロサージによるダメージをいかに抑えるかが重要なポイントになります!
なんでマイクロサージが発生するの?|そのメカニズムについて


まずはマイクロサージのメカニズムを解説する前に、インバータの仕組みについておさらいしておきましょう。
引用先:松定プレシジョン株式会社(インバータとはどんな技術?仕組みと使用用途を解説)
インバータは、入力電圧がAC200V仕様・AC400V仕様関係なく、上図のような仕組みになっています。
商用電源を内部の「コンバータ回路」で直流に一旦変換し、「平滑コンデンサ」で直流に変換した電気を平滑化(なめらかに)します。
実は、この平滑化した直流電圧は変換する前の交流電圧と同じぐらいの電圧ではなく、商用電源の約√2倍(約1.4倍)ぐらいと少し高くなります。
これは、整流(直流に変換)した電圧の頂点付近(波形のピーク値)を平滑化していることが理由です。
引用先:株式会社マクニカ【交流(AC)電源と直流(DC)電源】
上のグラフは、整流後と平滑化した直流電圧の波形を表したものです。
赤い線が整流した直後の電圧、青い線が平滑化した後の電圧をそれぞれ表しています。
縦軸の「電圧[正規化]」は、基準となる入力電圧に対しての高さを相対的に示したもので、赤い線の頂点が1.4倍の高さ近くまで達しているのが分かるかと思います。
そのため、商用電源がAC200Vであれば約DC283V、AC220Vであれば約DC311V、AC400Vであれば約DC566V、AC440Vであれば約DC622Vという電圧が、周期的に発生しているということになります。



入力電圧よりも更に高い直流電圧が発生するということですね
次に、この√2倍程度になった直流を再び交流に戻すために、インバータ回路にて高速スイッチングが行われます。
このとき、配線に含まれるコイル成分(L)とコンデンサ成分(C)からなる「回路」に高速スイッチングを行うことで「LC共振」という現象が発生します。
LC共振は電圧や電流を増幅させる作用を持つため、これによって高電圧のノイズがインバータの出力電圧に上乗せされます。
引用先:オリムベクスタ株式会社(NEXT GTR 新型MIDシリーズ ギアモータ)
この上乗せされた高電圧がインバータで発生するマイクロサージの正体です。
このサージ電圧はインバータのスイッチング速度や配線長によって変化し、最大で直流電圧の約2倍程度にまで達することがあります。
200V級と400V級のマイクロサージの違い


200V級と400V級どちらのインバータでもマイクロサージは発生しますが、200V級と400V級でどのような違いがあるのでしょうか?
それはズバリ、サージ電圧の大きさです。
前項で発生するサージ電圧は直流電圧の2倍程度にまで達することがあるとお伝えしました。
つまり、商用電源の電圧がAC200V〜AC220Vの場合はサージ電圧が566V〜622V程度なのに対し、商用電源の電圧がAC400V〜AC440Vの場合はサージ電圧が1,132V〜1,244Vと、かなり高い電圧が発生することになります。
これが、インバータでモータを駆動するときに考慮すべき、200V級と400V級の違いになります。



AC200V級とAC400V級とではかなり電圧の高さが異なります!
発生するマイクロサージの影響


インバータで発生するマイクロサージがモータに与える最も大きな問題は「モータの絶縁破壊」です。
モータの絶縁破壊とは、巻線などの絶縁体が電気的に破壊され絶縁性能を失ってしまうことを言います。
インバータで発生したマイクロサージは、接続されているモータの入力端子に印加されるため、モータはマイクロサージによる攻撃を常に受け続けます。
このマイクロサージによる攻撃で、モータ巻線が損傷するなどの絶縁破壊を引き起こす場合があります。
通常150Vを超えるモータは1,500Vの交流電圧を1分間印加する絶縁耐力試験にパスしているほか、サージ電圧が約850V以下までであれば許容できるだけの絶縁強度を持っています。
そのため、200V級のインバータでモータを駆動したときのサージ電圧(約600V程度)がモータの絶縁強度に問題を起こすことはありません。
ただ400V級のインバータの場合は、発生するサージ電圧が2倍の約1250Vに達することがあるため、場合によってはモータの絶縁を損傷させてしまうことがあります。
モータの絶縁破壊はショートなどの致命的な故障に直結し、設備は直ぐに機能不全に陥ってしまいます。
マイクロサージからモータを守る対策


インバータのサージ電圧によるモータの絶縁破壊の対策としては以下ものがあります。
絶縁強化型のモータを使う
モータには標準の絶縁強度のもののほかに、絶縁強度を強化した「絶縁強化型」のモータというものが存在します。
一般的なモータが許容できるサージ電圧は850Vまでですが、絶縁強化型のモータの場合は400V級のインバータで発生するサージ電圧に耐えられるよう、1,250Vまでのサージ電圧を許容することができます。
つまり、サージ電圧に対して力で対抗しようというわけですね。
メーカによっては400V級の4極モータを注文すると標準で絶縁強化されていたり、インバータ駆動専用を指定すると400Vモータは全て絶縁強化されていたりと、ユーザが指定しなくても対策がなされている場合があります。
これらの対応についてはメーカ毎に異なりますので、400V級のインバータでモータを駆動する場合は、購入前にメーカに照会を行って絶縁強化型であることを確認するようにしましょう。
注意点としては、絶縁強化型モータは標準のモータと比べてサイズが大きくなることがありますので、標準モータから絶縁強化型のモータに変更する場合は、周囲の取り合いをよく外形図で確認するようにしてください。
サージ電圧抑制フィルタを付ける
サージ電圧抑制フィルタとは、その名の通りインバータで発生するサージ電圧を抑制してくれる機器です。
引用先:MEL SHOP(サージ電圧抑制フィルタ)
機器の見た目はこのようなイメージとなっており、インバータとモータの間に接続して使用します。
引用先:東芝シュネデール・インバータ株式会社【オプション(周辺機器について)】
このフィルタをインバータの出力側に接続すると、インバータから発生する電圧の立ち上がりを鈍らせる効果が有るので、サージ電圧のようなグッと上がる電圧を抑えることができるわけですね。
注意点としては、サージ電圧抑制フィルタがそこそこの大きさと重さがあるので、ある程度の取付スペースを盤の中に確保しなければならないところです。
また、フィルタ自体かなり熱を持ちますので人が触らないように安全対策を確実に行う必要もあります。
訳あってモータを絶縁強化型にできない場合は、このサージ電圧抑制フィルタを設置することでかなり絶縁破壊を軽減する効果が期待できます。
直入れ制御にできないか検討する
400V級モータが絶縁破壊を起こす要因がインバータであるならば、インバータを使用しないで直入れ制御にできないか検討するのも対策の1つです。
設備の中にはインバータでわざわざ速度制御しなくても、特に支障がない場合があります。
僕が経験したところでは、ポンプのモータの回転数をインバータで無理矢理上げて吐出量を増やしている装置が有ったのですが、あまりにモータの故障が多かったためポンプ自体の容量を上げてインバータを取っ払うという改造を行ったことがあります。
このように現場の面倒な改造を避けるため、横着して出来るだけ楽な方法をとっているパターンがたまに見受けられます。
直入れ制御で済むようなケースは部品点数が少なくなり、モータ自体の価格も絶縁強化型でないぶん安く済ませられるので、ランニングコストの面からも有利になります。
200V級に電圧を落とせないか検討する
400V級インバータのサージ電圧がモータの絶縁破壊を起こす程高い電圧であるならば、いっそ電源電圧を200Vの駆動系に変えてしまおうという方法です。
この方法も前項のように、モータを損傷させるようなサージ電圧を発生させないようにするための考え方になります。
400V仕様のモータは有名どころ(三菱電機など)であれば標準でラインナップされていますが、小さなメーカや自社製品専用でモータを作っているようなところは、200V仕様しかラインナップされていない場合があります。
このようなメーカでも特注で400V仕様を作ってくれることはありますが、絶縁強化型にまではなかなか対応してもらえません。
これも僕の経験です。とある送風機メーカの送風機を特注で400V仕様にして(コイルを自社で巻き替えてもらって)使っていました。ただ、昔から送風機の風量が足らず、インバータを取り付けて周波数を上げることによって風量を無理矢理増やす処置を行っていました。
ところが、送風機のモータが故障するという不具合が途中から頻発し始めました。絶縁強化型に対応していない送風機をインバータで駆動していたのが原因です。
対策として送風機の容量を上げてインバータは取っ払い、かつ電源電圧をトランスで200Vに落とすという改造を検討して実行しました。
なぜ、電源電圧を200Vに落としたかというと、400V仕様の送風機が特注であったため価格が高いことと製作に納期が掛かることから、その点も合わせて改善したかったためです。
電源電圧を200Vに落とす場合はトランスを設置するなどの初期投資が必要ですが、サージ電圧の影響をあまり考えないで済むほか、機器自体の価格や納期を抑えることもできるので、可能で有れば検討の余地があるかと思います。
400V級のインバータからモータを守ろう


以上、400V級のインバータにおけるサージ電圧やその特徴について解説しました。
400V級のインバータで駆動しているモータについては、常に大きなサージ電圧と戦いながら設備を動かしてくれています。
対策にはモータを戦士のように強くする方法やフィルタで抑制する方法のほかに、そもそも大きなサージを発生させないという本質的な方法もあります。
僕自身このサージ電圧によるモータ故障は何回も経験し、様々な対策を行ってきました。
今では、この記事で上げた4点の対策を行っていったことで、現在では絶縁破壊といった不具合はほとんど発生していません。
400V級のインバータで特に対策をせずとも、数ヶ月稼働していればモータの故障率はかなり低くなると言われます。ですが、僕たちの気付かないところで人知れずサージ電圧に耐えてくれているのかもしれません。
もし、何も対策がされていない箇所を見つけたら、不具合が起きていなくてもモータが力尽きる前にサージ電圧から守ってあげてくださいね。







