電源電圧上昇でモーターの電流がなぜ増える?|原因とインバータで出来る対処方法

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なべ
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定期点検時に、インバータに接続されているモーターの電流値がいきなり高くなったという経験はありませんでしょうか?

装置が過負荷状態になっているわけでもなく、動きを見てもいつもと変わらない状態。。。

なのに、なぜか電流値だけが上昇している——

このような現象は、受電電圧の上昇によって接続されているインバータの電源電圧が変動し、その結果としてモーター側の電流値に影響を及ぼしていることがあります。

特に、キュービクルの更新や変圧器のメンテナンスなど、客先が高圧設備の改修工事を行ったあとに、気付いたら受電電圧が高くなっていたというケースが多く見られます。

電流値が上昇してしまっていても、モーターの定格電流値内におさまっていれば特に問題はありませんが、定格電流を超えてしまっている場合は、何らかの対処が必要になります。

この記事では、そんな時に行えるインバータでの対処方法について解説していきます。

ひでくん
ひでくん

モーターの電流値が高い状態が続くと熱を持ったりするので、あんまり良い状態とは言えないよね

なべ
なべ

インバータの設定だけで対処できる場合がありますので覚えておきましょう

電源電圧が高くなると、なぜ電流値が高くなるの?

なぜ、インバータの電源電圧が高くなると、接続されているモーターの電流値も高くなるのでしょうか。

それは、インバータの電源電圧が上昇することによって、インバータの内部で作り直される直流電圧も一緒に高くなるからです。

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【インバータとは?】仕組・原理や使い方について分かりやすく解説
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インバータは内部で作り直した直流電圧を変換してモーターに送っているのですが、通常はモーターの磁束が増えすぎないように電圧を調整しています。

磁束を一定に保たないとモーターのトルク(力)が過剰になり、電流も一緒に高くなってしまうためですね。

しかし、電源電圧が高くなりすぎてしまうと、インバータが調整できる補正範囲を超えてしまい、相対的にモーターへ送られる電圧も高くなるという状態になります。

そのため、結果的にモーターの磁束が増加してトルクが増加するため、電流値もそれに比例して高くなるというわけです。

ひでくん
ひでくん

モーターの定格電圧を超えた電源電圧になると、このようなことが起きる可能性があるよ

インバータで出来る|モーター電流値を下げる方法

インバータの操作で出来る対処方法についてご紹介します。

「基底周波数電圧」を調整する

インバータの操作で最も簡単な方法としては、パラメータの「基底周波数電圧」を調整するというやり方です。

“基底周波数”とは、モーターが定格トルクを連続で発生させることができる最高周波数のことで、この基底周波数のときに供給される電圧のことを「基底周波数電圧」と呼びます。

デフォルトではインバータの電源電圧と基底周波数電圧が同じになるよう設定されています。

通常はこの設定で問題がないのですが、電源電圧の変動が激しかったり、モーターの定格電圧を超えるような高い電源電圧であるような場合には、このパラメータを調整することで電流を下げることが可能になります。

調整方法(三菱電機製インバータの場合)

三菱電機製インバータで基底周波数電圧を調整するには、Pr.19の数値を変更します。

他メーカーは次の数値が基底周波数電圧に相当

  • 安川電機製「E1-13:ベース電圧」
  • 富士電機製「F5:ベース(基底)周波数電圧1」
  • 東芝製「vLv:基底周波数電圧1」

三菱電機製インバータの場合、Pr.19を設定していない状態だと”9999″になっています。

Pr.19が”9999″の場合は、電源電圧と基底周波数電圧が同じという設定になります。

この数値を任意の値に変更することで、電源電圧の変動等による影響を最小限にすることができます。

例えば、基底周波数電圧をAC200Vにしたい場合は、設定値を”200″に変更します。

このようにPr.19を”200″に変更すると、基底周波数電圧がAC200Vという設定になります。

ちなみに、Pr.19を”8888″に設定すると、「電源電圧の95%を基底周波数電圧とする」という設定にすることもできます。

この設定については、状況に応じて調整してみてください。

僕の場合はPr.19を”200″に設定してモーターを動作させてみます。

調整した結果

パラメータを調整した結果を見てみましょう。

ちなみに、僕が調整したインバータの電源電圧を測定するとAC225.6Vあります。

高圧設備を更新する前はAC200V前後だったのですが、更新後かなり受電電圧が上がってしまいました。

この電源電圧でPr.19を何も設定していない状態(9999:電源電圧=基底周波数電圧)でモーターを駆動すると、電流値は3.86Aでした。

駆動しているモーターの定格電流値が3.9Aなので、ギリギリ定格値内には収まっているものの、あまり面白くないですよね。

次に、Pr.19を”200″に変更して電流値を測定してみます。

どうでしょうか、電流値が3.86Aから2.78Aに下がりました。

この電流値は受電電圧が上昇する前の数値とほぼ同じレベルなので、過剰な電流値が抑えられていると言えるのではないでしょうか。

この状態で実際に試運転を行ったところ、動作に問題が無いことを確認しました。

ただし注意点として、この設定を行うと場合によってはモータートルクが小さくなる可能性があります。

そのため、調整後の試運転は十分行い、動作や負荷に対する挙動をしっかりと確認するようにしてください。

また、電源電圧の変動や上昇が一時的である場合もあるため、状況に応じてパラメータの数値を見直すことも忘れず行うようにしましょう。

なべ
なべ

1つの手段として覚えておくと役に立ちますよ

インバータの制御方式を変更する

インバータの電流値を安定させる方法として、インバータの制御方式を変更するという手段もあります。

例えば、三菱電機製インバータには「磁束ベクトル制御」というモードが用意されていて、インバータの設定を変更するだけで制御方式を変えることができます。

こちらを参照!
【三菱インバータの磁束ベクトル制御とは?】V/F制御との違いについて
【三菱インバータの磁束ベクトル制御とは?】V/F制御との違いについて

ただし、インバータとモーターの組合せに制限があったり、設定や操作に若干の手間が掛かりますので、必ずメーカーのマニュアルを確認して設定するようにしましょう。

ひでくん
ひでくん

磁束ベクトル制御は回転速度の精度向上や負荷変動に対する安定性など、メリットも多い制御方式だよ

まとめ

以上、電源電圧上昇によってモーター電流が増加した際に、インバータ側で行える対処方法について解説しました。

インバータには様々な機能や設定があり、このような”小技”を覚えておくことでいざという時に役に立ちます。

特に工場内設備は、高圧受電設備のメンテナンスによって影響を受けやすい立場にあります。

設備の安定稼働のためにも、日頃の定期点検で「あれっ?」と少しでも違和感を持ったときは、素早い対処を心掛けましょう。

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