ポールチェンジモーターって何?|仕組みやメリット・デメリットについて解説

皆さんは「ポールチェンジモーター」と呼ばれるモーターをご存じでしょうか?
ポールチェンジモーターは別名”極数変換モーター“とも呼ばれていて、「極数(ポール)を切り替えて(チェンジして)回転数を変える」という仕組みを持ったモーターなんです。
モーターの回転数を変える方法としては、「インバータ制御」を思い浮かべる方が多いと思いますが、インバータが無かった時代ではシンプルな構造で回転数を切り替えられる、ポールチェンジモーターが広く使われていました。
最近ではあまり使われなくなりましたが、攪拌機(かくはんき)や送風機などの用途で現在も使われています。
この記事では、ポールチェンジモーターの仕組みや特徴、メリット・デメリットについて解説していきますので、是非参考にしてください。
ポールチェンジモーターは最近見かけなくなったよね〜
僕の職場では、ポールチェンジモーターがまだまだ現役で活躍してますよ
ポールチェンジモーターとは?
ポールチェンジモーターとは、モーターの中にある複数の巻線を切り替えることで極数(ポール)を変え、回線数を変化させることができるモーターです。
ポールチェンジモーターの多くは、”低速用”巻線と”高速用”巻線の2種類が内部に組み込まれていて、それぞれの巻線から出ている口出線に低速用回路と高速用回路を接続して使用します。
巻線が3種類以上のものも存在するみたいですね
以下が、一般的なポールチェンジモーターの使い方です。
まずは、ポールチェンジモーターの低速用巻線に低速回転用のMC(電磁接触器)を接続し、高速用巻線に高速回転用MCを接続します。
低速でモーターを回転させたい時は、低速回転MCをONさせて、モーターの低速用巻線に電気を供給します。
すると、モーターは低速回転を始めます。
もちろん、UVWの相を入れ替えるとモーターは逆回転します。この辺の使い方は普通のモーターと同じですね。
次に、高速回転させたい場合は、低速回転用のMCをOFFにして高速回転用のMCをONさせます。
すると、今度は高速用巻線に電気が供給されて、モーターは高速回転を始めます。
このように、電磁接触器などのスイッチで電気を供給する巻線を変えることで、簡単に速度制御ができるのがポールチェンジモーターです。
簡単な回路と電磁接触器だけで速度制御ができるよ
原理・仕組みについて
ポールチェンジモーターは、極数(ポール)を変えることでモーターの回転数を変化させています。
その原理や仕組みについて解説していきましょう。
モーターの回転数が変わる原理
モーターの回転数は以下の式で表されます。
式を見てみると、周波数が同じであれば次のことが成り立ちます。
- 極数が増える→モーターの回転数が減る
- 極数が減る→モーターの回転数が増える
極数が式の分母にあるので、上記のようになります
つまり、モーターに供給する電源の周波数が同じなら、極数を増やすことでモーターの回転速度が遅くなり、極数を減らすことで回転速度が速くなります。
これがポールチェンジモーターの動作原理になります。
ポールチェンジモーターの仕組み
ポールチェンジモーターの仕組みは次の通りです。
上図は、極数が8極あるモーターを表しています。
N極とS極がそれぞれ4つずつあるので、全部足して計8極ですね。
2速のポールチェンジモーターは、この8極全部に電流を流す低速回転ルートと、4極だけ電流を流す高速回転ルートの2パターンの配線があり、回転させたい速さのルートを切り替えることで速度の制御を行うことができます。
- 4極:S−Nの組合せが2組 → 高速回転
- 8極:S−Nの組合せが4組 → 低速回転
4極/8極の場合は、単純に高速のスピードは低速のスピードの倍ということになるね
この極数の組合せは4極/8極という構成以外にも、6極/12極や4極/16極など、様々な組合せが存在します。
ポールチェンジモーターのメリット
主流のインバータ制御と比べて、ポールチェンジモーターには次のようなメリットがあります。
速度制御が簡単
インバータ制御の場合は、インバータという制御機器を設置する必要がありますし、速度指令信号をインバータに対して入力する必要もあります。
ポールチェンジモーターの場合は、電磁接触器の開閉だけでモーターの回転速度を変えることができるため、簡単な回路で速度制御が可能となります。
ややこしい機器を使わなくても良いというメリットがありますね
壊れにくい
ポールチェンジモーターの速度制御には精密な制御機器を必要としないため、インバータ制御と比べて故障などのトラブルが少ないというメリットがあります。
インバータは10年以上使用すると、内部の電解コンデンサや半導体部品などの寿命によって故障するリスクが高まりますが、ポールチェンジモーターの場合は構造がシンプルで、摩耗部品が少ないため非常に長寿命です。
電磁接触器の接点さえしっかりと点検すれば、ほとんどノーメンテで運用できるよ
ランニングコストが抑えられる
ポールチェンジモーターは、インバータ制御のように別途制御装置を必要とせず、さらに定期的な交換部品もほとんど有りません。
そのため、長期運用におけるランニングコストを抑えられる点も大きなメリットの一つです。
僕が担当している設備でも、ポールチェンジモーターに掛かるメンテコストはかなり低いですね
ポールチェンジモーターのデメリット
次に、ポールチェンジモーターのデメリットについてもお伝えします。
速度の切替が急
インバータ制御の場合はモーターの速度を緩やかに切り替えることができますが、ポールチェンジモーターの場合は、回転速度が一気に一気に切り替わります。
例えば、低速から高速に切り替えた場合は一気に回転速度が倍ぐらいに跳ね上がり、高速から低速に切り替えると急に回転速度が半分になったりします。
このように、急加速急減速となってしまう点がポールチェンジモーターの大きなデメリットです。
昔、クレーンの走行で使われてた時は、かなり動きが激しかったのを覚えているね
モーターが大きくなる
ポールチェンジモーターは低速用・高速用巻線が同じ本体内に納められているため、一般的なモーターよりも重く大きくなります。
同容量のモーターと比べて2回りぐらい大きくなりますので、一般的なモーターに交換する場合には、取付けに十分な検討が必要です。
最近のモーターは特に小さくなっていますから、かなり大きさに差があります
減速の瞬間に音が鳴る
ポールチェンジモーターは高速から低速に切り替わる瞬間、「キュンッ」という音がなります。
容量が小さいポールチェンジモーターの場合はあまり聞こえませんが、少し大きなモーターになると、かなり大きな音が鳴ります。
インバータ制御の場合はそのような音は鳴りませんので、知らない人が聞くと少し驚かれるかもしれません。
「キュンッ」っていう音がポールチェンジモーターの特徴でもあるよね
トップランナー制度の対象外
トップランナー制度とは、省エネ法に基づき一定以上の効率基準を満たすことを義務づけた制度で、2015年4月からモーターも対象となりました。
つまり、2015年4月からメーカーさんは効率の良いモーターしか作って売っちゃだめ!ということですね。
ただし、ポールチェンジモーターはこのトップランナー制度の対象外となっていますので、最近製造されたポールチェンジモーターを購入したとしても、高効率モーターのメリットを享受することができません。
高効率モーターは置き換え時に色々注意点があるため、逆にこれがメリットになる場合がありますね
手に入りにくい
ポールチェンジモーターは、かつて様々な産業機械に広く使われていました。
しかし、インバータが普及するにつれてデメリットの方が上回ってしまい、最近ではほとんど見かけなくなってきています。
そのため、既設設備でポールチェンジモーターを使っていて交換したいと思っても、製造しているメーカーが限られているため、後継機種に交換することが難しいというデメリットがあります。
攪拌機など一定のニーズがあるため、新しいポールチェンジモーターが世の中から姿を消したということは有りません。
ですが、大手メーカー(例:三菱電機など)ではすでに生産を中止している場合が多く、入手は限られたメーカーからになってしまうのが実情です。
富士電機やSEWなどは、まだ作っているみたいだね
まとめ
以上、ポールチェンジモーターについて、仕組みやメリット・デメリットなどの特徴について解説しました。
現在ではインバータ制御の方が主流ですが、ポールチェンジモーターは「部品が少なく壊れにくい」「維持費が安い」といったメリットもあるため、今でも一部の用途で活躍しています。
昔のモーター技術を知り、今後の仕事にも活かしていきましょう。