【重要】工業用電力ラインで使用するテスターの選び方について解説
電気関係の保全を行ううえで欠かせない器具であるテスター。
テスターには大きく分けてデジタルテスターとアナログテスターがありますが、使用するテスターを選定するうえで重要な要素がもう一つあります。それが「工業用電力ラインで使用できるか?」という点です。
もし、工業用電力ラインで安全性の低いテスターを使っていると、測定者は大きな事故に見舞われる可能性があります。
そのため、安全に測定作業を行うためには、「どのような回路で使用するのか?」「選定したテスターはこの回路で使えるのか?」などを十分検討しなければなりません。
この記事では、工業用電力ラインにはどのような危険が潜んでいるのか、またそのような回路の測定にはどんなテスターを選択すれば良いのかをお伝えしていきますので、是非参考になさってください。
工業用電力ラインの測定作業を行う場合は、適正なテスターを必ず厳選して使ってください!
工業用電力ラインとは?
工業用電力ラインとは、建造物の引き込み線や工場の各設備に電源を供給している大容量電路のことを指します。
例えば下の写真のような、設備の電源ブレーカの一次側に接続された配線などです。
このような配線は、工場のキュービクルから直接敷設されていたり、様々な設備の電源が接続された大きなブレーカの二次側から敷設されていたりします。
つまり、様々な建造物や設備の電源が混在して接続されている電路のことを工業用電力ラインと言うわけですね。
では、一般家庭の屋内配線や制御盤内の回路と比べて、工業用電力ラインにはどのような危険が潜んでいるのでしょうか?
工業用電力ラインに潜む危険
工業用電力ラインに潜む危険、それは「急激な電圧の変動」です。
工業用電力ラインには様々な設備が接続されているため、それらの電気系統から発生するノイズや開閉サージ、配線のインピーダンスなどによって電源電圧の実に何倍もの突発的な電圧変動が起こる場合があります。
そのため、このような急激な電圧変動に耐えることが出来ないようなテスターを使っていると、感電などの人身事故に繋がってしまう危険性があるのです。
安全性の高いテスターって何が違うの?
工業用電力ラインでも使える安全性の高いテスターと、カードテスターのような簡易なテスターとでは何が違うのでしょうか?
過電圧に対する耐力が異なる
工業用電力ラインでは電源電圧の何倍もの変動が発生するため、簡易なテスターではその過電圧に耐えることが出来ません。
写真を見ても分かる通り、明らかに強烈な電圧変動には耐えられそうにないですよね。
工業用電力ラインの使用を想定したテスターの場合は、簡易なテスターとは異なり非常に頑丈な造りをしており、テストリードの線も比較的太くなっています。
内蔵しているヒューズの性能が異なる
工業用電力ラインでの測定中に万が一短絡事故が発生した場合、いち早く短絡電流を遮断してくれるのが本体に内蔵されているヒューズです。
一口にヒューズと言っても様々な種類が存在しますが、工業用電力ラインで求められるのは大きな短絡電流を確実に遮断できる溶断性能です。
溶断性能の低いヒューズだと、測定中に発生させてしまった短絡電流を遮断しきれないという事態になり、短絡事故を回避することができません。
大きな短絡電流でも確実に遮断し、測定者の安全を確保するために最適なヒューズを内蔵しているのが工業用電力ラインで使えるテスターの特徴の1つです。
どのようなテスターを選べばいいの?
工業用電力ラインで使えるテスターは何を基準に選べば良いのでしょうか?
選ぶ基準はズバリ「測定カテゴリ」と「対地間電圧」です。
測定カテゴリとは?
測定カテゴリとは、発生する過電圧の影響を考慮して測定箇所を分類したもので、カテゴリⅠ(CAT.Ⅰ)からカテゴリⅣ(CAT.Ⅳ)の4種類に分類されます。
引用先:菊水電子工業株式会社(KPM1000)
測定カテゴリ | 測定できる箇所 |
カテゴリⅠ(CAT.Ⅰ) | コンセントから変圧器を介して過電圧制御が されている回路 |
カテゴリⅡ(CAT.Ⅱ) | コンセントに直接接続する機器のプラグから 機器の電源までの回路 |
カテゴリⅢ(CAT.Ⅲ) | 分電盤から直接電源をとる固定設備の 一次側及びコンセントまでの電路 |
カテゴリⅣ(CAT.Ⅳ) | 建造物への引込み電路、引込み口から 電力量メータ及び分電盤までの電路 |
上の図や表から分かる通り、カテゴリの数値が増えるほど危険性が高い測定箇所となっており、工業用電力ラインに当たる測定カテゴリはカテゴリⅣ(CAT.Ⅳ)です。
各社が製造しているテスターはこの測定カテゴリに即した作りになっており、それぞれの測定カテゴリを満たしたテスターを使うことで、測定カテゴリにあった安全性を享受することが出来ます。
対地間電圧とは?
対地間電圧とは地面(アース)に対して掛かる電圧のことを言い、テスターの測定カテゴリ表記の横に測定できる対地間電圧の最大値が記載されています。
測定カテゴリ・対地間電圧の見方
前項の「測定カテゴリ」と「対地間電圧」は、通常テスターの目立つところに記載があります。
例えば、僕が所有しているテスターの測定カテゴリと対地間電圧は、「CAT.Ⅲ 300V/CAT.Ⅱ 600V」と記載されています。
つまりこれは、「カテゴリⅢの測定箇所なら300Vまで測定できるよ、カテゴリⅡの測定箇所なら600Vまで測定できるよ」という意味になります。
このスペックは、カタログやメーカーホームページの仕様欄等に書かれています。
テスターの選び方
これまでのことを踏まえると、工業用電力ラインでの測定を安全に行うためには測定カテゴリ「カテゴリⅣ(CAT.Ⅳ)」を必須とし、対地間電圧は600V以上のものを選びましょう。
対地間電圧についてはカテゴリⅣ(CAT.Ⅳ)準拠で300Vの機種も存在しますが、安全性を考えるとやはり600V以上のものの方がおすすめです。
工業用電力ラインでの災害事例
僕の会社で起こった実際の災害事例をご紹介します。
発生状況
設備の不具合連絡を受けた保全担当の被災者は、現場到着後にモータが動かなくなったため調査して欲しいとの依頼を受ける。
被災者は設備へ電圧が正常に掛かっているか確認するため、元電源ブレーカの1次側を手持ちのテスターで測定しようとしたところ、短絡によるアークが発生した。
被災者は発生したアークの熱により火傷を負った。
原因
被災者が測定に使用したのは簡易なアナログテスターで、設定するレンジを電圧ではなく180°反対側の抵抗のレンジに設定してしまっていた。
この災害は、工業用電力ラインで測定カテゴリに準拠していないテスターを使用して起きてしまった災害です。
カテゴリⅣ(CAT.Ⅳ)600Vのテスターを使っていたら、内部のヒューズが切れただけで済んだかもしれません。
安全を意識した道具選びをしよう
以上、工業用電力ラインで使うテスターの選び方についてお伝えしてきました。
テスターは様々な種類があって大きさや価格はまちまちです。
特にカテゴリⅣ(CAT.Ⅳ)準拠で対地間電圧が600Vを超える機種についてはサイズが大きいため、普段はカテゴリⅢ(CAT.Ⅲ)300V程度の機種を使いつつ、場面に応じて使い分ける方が取り回しは楽かと思います。
実際、僕自身も普段の測定作業はカテゴリⅣ(CAT.Ⅳ)のテスターは使っていません。
ですが、カテゴリⅣ(CAT.Ⅳ)に準拠したテスターは常に持っており、工業用電力ラインの測定作業には必ずそちらを使用します。
皆さんも、このような痛ましい事故が自分の身に降りかからないよう、安全を意識した道具選びを心掛けるようにしてください。
道具は壊れても取り返しがつきますが、怪我をしてしまったら取り返しがつきませんから。