ローラーチェーンのメンテナンスや寿命・交換時期について解説
工場の工作機械や生産設備、バイクや自転車に至るまで様々なところでローラーチェーンは使われています。
一見頑丈そうに見えるローラーチェーンですが、長年使っているとやはり摩耗や伸びが発生します。その為、ローラーチェーンには定期的なメンテナンス、場合によっては交換が必要になってきます。
この記事ではローラーチェーンの日頃のメンテナンスや寿命による交換時期の見極め、取り扱いの注意点等について解説します。
ローラーチェーンのメンテナンスは重要なポイントがいくつかあります。正しくメンテナンスすればかなり長持ちしますので、是非覚えていってください。
ローラーチェーンとは?
ローラーチェーンとは名前の通りローラーが組み込まれているチェーンです。
このローラーが回転することでスプロケットとスムーズに噛み合ったり、局所的な異常摩耗を防いだりしてくれています。
ローラーチェーンの構造
引用先:大同工業株式会社(ローラーチェーンQ&A)
ローラーチェーンは大まかに、外プレートとピンからなる外リンクと、内プレートとブシュとローラーからなる内リンクとで構成されています。
外リンクのピンは、外プレートの穴を貫通したあとに外側からカシメ(叩いて潰すことでピンの先が穴より大きくなる)られており、プレートから抜けないようになっています。
また内リンクのブシュは、内プレートの穴に圧入されて抜けないようになっています。
この外リンクと内リンクが交互に連結されて1本になったものが、一般的なローラーチェーンになります。
内リンクにあるブシュは軸受けのような働きをしていて、ピンとローラーをスムーズに回転させる役目を担っています。
ローラーチェーンのサイズ
引用先:大同工業株式会社(チェーンの基礎知識)
ローラーチェーンは様々なサイズがあり、大きくなればなるほど許容できる引張り強さも大きくなります。つまり、大きな張力が掛かる箇所にはそれなりのサイズのローラーチェーンが必要になってくるわけですね。
このローラーチェーンのサイズは規格化されていて、ピン穴とピン穴の間隔(ピッチ)で決められています。
上図で言うと、ピッチが4/8インチ(12.7mm)のチェーンは「40」、ピッチが5/8インチ(15.875mm)は「50」、ピッチが6/8(19.05mm)「60」というサイズになります。
ローラーチェーンで一番有名な椿本チエインの形番でいうと、4/8インチのチェーンは「RS40」、5/8インチのチェーンは「RS50」、6/8インチのチェーンは「RS60」と表現されています。このRS〜というのが一番ポピュラーではないでしょうか。
メーカーによって若干表現方法が異なりますが、サイズ展開は各メーカーとも共通してします。
ローラーチェーンの種類
ローラーチェーンには様々な種類があります。
複数列チェーン
引用先:MonotaRO(RSローラーチェーン 2列)
複数のローラーチェーンが合体して1本になったものが複数列チェーンです。よく使われるのは2列のローラーチェーンですね。
複数列のローラーチェーンは単純に引張り強さが×列数になります。なので、2列のチェーンは引張り強さが2倍、3列のチェーンは引張り強さが3倍になります。
バイピッチチェーン
引用先:MonotaRO(ホローピンバイピッチチェーン)
バイピッチチェーンはその名の通りピッチが倍のローラーチェーンで、椿本チエインの製品名です。
バイピッチチェーンはピッチが倍になることで各プレートが長くなるため、下の写真のようなアタッチメントが取り付けられるというメリットがあります。
引用先:MISUMI(バイピッチチェーン)
なので、チェーン上に荷物を乗せて運搬するという搬送コンベア用のチェーンとして使われます。
ローラーチェーンは用途によって形や材質など実に様々な種類があります。ローラーチェーンで有名な椿本チエインのページをよかったらのぞいてみてください。→椿本チエインのHP
ローラーチェーンでよく起きる不具合
ローラーチェーンを長期間使用していると、主に次のような不具合が発生します。
ローラーチェーンの伸び
ローラーチェーンは使っていると時間の経過と共に段々「伸び」が発生します。チェーンの全長がちょっとずつ長くなるわけですね。
チェーンに「伸び」が発生すると、チェーンがたるんでスプロケットから外れたり、動作中に異音が発生したりなどの様々な不具合が起き始めます。
なぜローラーチェーンが伸びるのかというと、ゴムのように金属が変形して長くなるわけではなく、チェーンを構成しているピンやブシュの摩耗によって、部品間に隙間が空いてしまうためです。
引用先:日精機工株式会社(DIDチェーンの摩耗伸び測定用 限界ゲージ)
このように、摩耗によって発生した微少な隙間が積み重なることでチェーン全体が長くなってしまう「伸び」のことを摩耗伸びといいます。
チェーンには摩耗伸び以外にも、使い始めで発生する初期伸びという現象もあります。初期伸びは新品のチェーンのピンやブシュがなじむことによって起きるもので、稼働後の早い段階で発生します。
ローラーチェーンの破断
ローラーチェーンに限界を超えた過大な力が加わり続けると、ピンやプレートはいずれ破壊され、最終的には「破断」に至ります。
引用先:MCC(ローラーチェーン「引張試験」の基準、試験方法と応用)
ローラーチェーンが破断してしまうと、装置が止まらずに暴走してしまったり、はじけたチェーンが他の機器を壊してしまうといった二次被害を引き起こすなど、比較的大きなトラブルに発展しやすくなります。
他にも、摩耗伸びが進行したチェーンを使い続けてしまったことで、ピンやブシュが痩せ細って変形したり割れたりして破断まで発展するケースもあります。
日々のメンテナンス
ローラーチェーンは日頃のメンテナンスを適切に行うことで、より寿命を長く保つことができます。
給油(注油)
ローラーチェーンのメンテナンスで最も重要なのがこの「給油(注油)」です。
ただし、ただチェーンへ油を付ければ良いというわけではありません。いくつかポイントがあります。
浸透性の高い潤滑油を使う
ローラーチェーンはピンやブシュ、ローラーや外プレート・内プレートの隙間に潤滑油が行き渡るよう給油することが非常に重要です。
なので、オイルやスプレーなどの浸透性の高い潤滑油を使って、可動部の隙間を狙うように給油しましょう。
おすすめは呉工業の「スーパーチェーンルブ」か、和光ケミカルの「ワコーズ チェーンルブ」です。
チェーンがたるんでいる方に給油する
ローラーチェーンに給油する際は、ピンやブシュに隙間がある状態で行うことが重要です。
チェーンが張った状態だと隙間が出来にくく、そこに給油しても細部までなかなか浸透していきません。
なので、チェーンにテンションが掛かっている場合は一旦チェーンを緩めてたるませてから給油することで浸透しやすくなります。
自転車やバイクなどのようにチェーンが輪っか状になっている場合は、回転している駆動スプロケットから出ていく方のチェーンが緩み側になるので、そちらに給油すると非常に効果的です。
チェーンには固形グリースを塗らない
ローラーチェーンに固形のグリースを塗ってしまうと、チェーンの隙間に浸透しようとする潤滑油の邪魔をすることになり、内部まで油が入っていきにくくなります。
固形のグリースはローラーチェーンにはあまり意味がないばかりか、逆に潤滑不良の原因にもなったりするので、適正な潤滑油だけを使用するようにしましょう。
チェーンのたるみ点検・調整
チェーンを使っていると初期伸びや摩耗伸びによって段々とチェーンにたるみが出てきます。
チェーンがたるむとスプロケットから外れたり異音が発生するだけではなく、衝撃によるベアリングや軸の破損にも繋がりますので、定期的な点検及び調整が不可欠です。
適正な張り具合か確認する
チェーンによる駆動装置にはチェーンの張り具合を調整するための機構が備わっていることがほとんどです。月一回は給油とあわせて張り具合を確認しましょう。
チェーンは次のような張り具合が適正です。
チェーンのたるみ(a)の限界は軸間距離の2%以下と言われています。なので、駆動側が停止している状態でたるみ具合を確認して、軸間距離の2%以上たるみが出ていないか点検します。
適正な張り具合に調整する
たるみが見受けられるようであれば調整を行いましょう。
チェーンの調整はボルトを締めて行うテークアップ機構orアジャスト機構や、テンショナースプロケットなど装置によって様々な方法があります。
もし、調整機構で調整しきらない場合はチェーンを1〜2リンク切り詰めし、再度適正な張り具合に調整を行います。
尚、チェーンは張りすぎるとモーターの軸やベアリングに過大な力が掛かり続けることになり、破損などの不具合に繋がる可能性があります。
なので、たるみ具合は軸間距離の1〜1.5%程度余裕を持たせてセットするようにしてください。
「この装置はここにチェーンが当たらないように」など、装置によって目安を決めておけば点検しやすくなりますよ。
交換時期はこうして見極めよう
寿命に近づいたローラーチェーンは様々な不具合を引き起こすリスクがありますので、時期を見極めて適時交換しましょう。
寿命を見極めるポイントは次の通りです。
切り詰めたチェーンは交換する
一度切り詰めを行ったローラーチェーンで再度調整が必要になった場合は、同じチェーンを使うのではなく必ず新品に交換するようにしましょう。
ローラーチェーンが伸びる要因はピンやブシュの摩耗によるものが大半です。なので、そのまま何度も切り詰めて使い続けると最終的には破損・破断してしまいます。
通常の設備では、摩耗の起きていないチェーンで調整・セットが行えるよう長さが設計されています。
ローラーチェーンの切り詰めを行わないと調整できないという状態は、すでにローラーチェーンが異常な状態であるというサインです。
出来ればローラーチェーンの切り詰めは応急処置と捉えて、直ぐに交換できるよう準備をしてください。
チェーンの伸びを測定して判断する。
チェーンの交換時期を判断するもう一つの方法は長さを測定するというやり方です。
何リンクかのチェーンの長さを測定し、基準長さに対してどれぐらい伸びたかを算出することで交換時期を判断します。
測定方法・伸びの算出方法は以下のようにして行います。
チェーンの長さを測定する為のノギスを準備します。使用するノギスは150mmのものが測定しやすいです。
チェーンに遊びがある状態だと伸び量が分からないため、テンションは掛けた状態のまま測定します。
測定するチェーンのリンク数が少ないと測定誤差が大きくなるので、6〜10リンクの間で測定しましょう。
ノギスを使用して、ローラーの外側から外側をSTEP3で決めたリンク数分測定します。この測定した長さを「L2」とします。
引用先:株式会社 椿本チエイン(Q&Aドライブチェーン)
今度は、同じリンク数でローラーの内側から内側をノギスで測定します。
この測定した長さを「L1」とします。
測定した「L2」と「L1」を使用して判定寸法「L」を計算します。
計算式は以下の通りです。
判定寸法 L=(L1+L2)÷2
STEP6で計算した判定寸法「L」を使ってチェーンの伸びを計算します。
計算式は以下の通りです。
チェーンの伸び=(判定寸法Lー基準長さ)÷基準長さ×100(%)
基準長さはチェーンピッチ×リンク数で算出します。
STEP7で算出したチェーンの伸び(%)が次の数値以上になっていたら交換時期と判断します。伸び率の限界は使用するスプロケットの歯数によって異なるため、注意しましょう。
スプロケットの歯数 | 伸び率の限界値 |
60以下 | 1.5% |
61〜80以下 | 1.2% |
81〜100以下 | 1.0% |
101以上 | 0.8% |
ちなみに、椿本チエインの製品で「チェーン摩耗測定スケール」という商品があります。
引用先:株式会社 椿本チエイン(チェーン摩耗測定スケール)
この製品は、チェーンの長さをノギスで測定しなくても一目で伸びの限界が分かる治具です。わざわざノギスで長さを測定して計算する必要がないので、1つ持っておくと非常に便利な製品です。是非、日々の点検に取り入れてみてください。
こんな使い方には注意しよう
ローラーチェーンの使い方についてはいくつかの注意ポイントがあります。
ジョイントリンクはクリップの向きに気をつける
引用先:MonotaRO(RSローラーチェーン用ジョイントリンク1列)
チェーンを接続するときにはジョイントリンクという部品を使いますが、その際のクリップの向きに気を付ける必要があります。
正しい取り付け方法は、クリップの開いている方をチェーンの進行方向と逆の向きに取り付けます。
引用先:株式会社 椿本チエイン(Q&Aドライブチェーン)
このように取り付ける理由は、クリップが開いている方がチェーンの進行方向に向いていると、万が一何かに当たった時に外れてしまう恐れがあるためです。
チェーンの進行方向が常に一定の場合は、必ず進行方向とは逆の向きにクリップの開き側を向けるようにしましょう。
チェーンが正転・逆転どちら方向にも回転する場合はこの限りではありません。
オフセットリンクは多用しない
引用先:MonotaRO(ステンレスオフセットリンク)
オフセットリンクとは、チェーンの外リンクと内リンク同士を接続するために用いる部品です。
チェーンを接続する時は通常ジョイントリンクを使用しますが、ジョイントリンクは内リンク同士でないと使用が出来ません。なので、長さを微調整したい場合にオフセットリンクを使用して接続する場合があります。
ただ、オフセットリンクはピンとリンクプレートが隙間ばめであることや、プレートを曲げて作られているため、本来の引っ張り強度の65%〜75%程度しかありません。
なので、あまり多用すると強度不足により破損するリスクが高まります。
チェーンのたるみ調整でやむなく使用する場合は最大1個とし、多用は避けるようにしましょう。
チェーンは正しくメンテすると長持ちする
以上、ローラーチェーンのメンテナンスについて解説してきました。
最近のローラーチェーンは基本性能が向上しているほか、特殊含油ブシュを使用することで無給油でも長寿命を実現した高機能チェーンも存在しています。
とはいえ、長期間安定したパフォーマンスを維持するためには、日々の正しいメンテナンスがやはり不可欠です。
日頃のメンテナンスをしっかり行ってトラブル0を目指しましょう。