【間違えるとどうなる?】200V仕様のモーターに400Vの電源を繋ぐと起こること
様々な設備を保全していると、古くなったモーターの取替作業を行うことが時々発生します。
工場内の電源は設備によってAC200VとAC400Vが混在している場合があり、それぞれ電圧仕様にあったモーターが使われています。
このような環境で保全作業をしている方は、使用するモーターの電源仕様が「本当に合っているか?」をしっかりと確認することが非常に重要です。
とは言え、似たような見た目のモーターをたくさん取り扱っていると、、、

200V仕様のモーターをAC400Vの電源に繋いでしまいました。。。
といった失敗を経験した方もおられるのではないでしょうか?
もちろん、逆のパターンもあるかと思います。
この記事では、このようなミス接続を行ってしまうとどのようなことが起こるのか?
順を追って解説していきたいと思います。

モーターは見た目で200V仕様か400V仕様かが分からないから、間違えるよね〜

コイルを巻き替えて無理矢理200Vから400V仕様に改造しているモーターもあったりしますので、銘板だけでなく回路図もよく確認する必要がありますね
200V仕様のモーターにAC400Vを繋ぐとどうなるの?

モーターに電源を接続して電圧を与えると、内部のコイルに電流が流れて回転磁界が発生し、モーターの軸(ローター)が回転を始めます。
では、この過程の中で、200V仕様のモーターに誤ってAC400Vの電源を接続するとどうなってしまうのでしょうか?
その答えは、数秒〜数十秒後に中のコイルが焼損してモーターが壊れます。
ここからは、なぜこのようなことが起きてしまうのか、そのメカニズムをひとつずつ見ていきましょう。
ステップ①:コイルに電流がたくさん流れる

AC200V定格で0.4kWの三相モーターを例にとり、モーターに流れる電流を計算してみましょう。
条件は以下の通りとします。
- 出力容量(Pout):0.4kW(400W)
- 定格電圧(V):AC200V(三相)
- 効 率(η):80%(0.8)
- 力 率(COSθ):80%(0.8)
まずは、モーターに供給される入力電力Pinを計算します。
Pinは出力電力(出力容量)Poutと効率ηを使って、次の公式で計算することができます。

Poutは条件から400W、ηは0.8なので、
Pin=400/0.8
Pin=500W になります。
次に、このPinの数字を使ってモーターのコイルに流れる計算を下の公式を使って計算します。

Pin=500、V=200、COSθ=0.8なので、この数値を上の式に代入すると、
I=500/(1.7320508×200×0.8)
I=500/277.128128
I≒1.80A
となりますので、本来の定格電圧でモーターを回転させたとき、コイルに流れる電流は1.80Aと計算することができます。
一方、電圧を200Vから400Vに上げた場合、単純に流れる電流も倍になるので、1.80A×2で3.60Aの電流が流れるということになります。

定格電流値(連続で安全に流せる最大電流値)の実に2倍の電流が流れるということだね
ステップ②:コイルが異常発熱する

モーターのコイルには一定の電気抵抗が存在しています。
そのため、コイルに電流が流れると巻線抵抗によってエネルギーの損失が生じ、その電力損失が熱となってモーター本体の温度を上昇させます。
この、コイルによって発生する熱のことを「ジュール熱」と呼びます。
どのようなモーターでも熱は発生しますが、200V仕様のモーターに200Vの電源に接続した場合と、400の電源に接続した場合とでは発生する熱量が大きく異なります。
実際に計算して確かめてみましょう。
電源電圧が200Vの場合
まずは200Vの電源に接続した場合を考えてみます。
モーター内ではジュール熱以外にも様々な電力損失が存在し、その全電力損失は入力電力Pinと出力電力Poutの差で求めることができます。
入力電力Pinは前項で計算したとおり500W、出力電力Poutは条件から400Wなので、全電力損失は500Wー400W=100Wとなります。
ここで、モーターの全電力損失のうち、”ジュール熱による損失”だけを取り出します。
ジュール熱による損失は、モーター仕様にもよりますが全電力損失の50〜60%ほどと言われていますので、100W×0.5=50Wと仮定します。
電源電圧が400Vの場合
次に、電源電圧が400Vの場合について考えていきます。
ジュール熱は次のような公式によって表されます。

Qがジュール熱を表し、Iが電流でRはコイルの巻線抵抗値、tは時間をそれぞれ示しています。
さらに、オームの法則である「I=V/R」を上の公式に当てはめると次のような形に変形することができます。

この式を使って、前項で計算したV=200及びQ=50を代入して、コイルの巻線抵抗値Rを計算してみましょう。
R=V×V×t/Q
R=200×200×t/50
R=800t Ω
となりますね。
次に、電源電圧を400Vにした場合を考えてみます。
電源電圧が200Vから400Vに上げたとしても、電圧を掛けるモーター自体は同じなので、コイルの巻線抵抗値Rは変わりません。
よって、V=400、R=800tを上の式に代入するとジュール熱Qは
Q=400×400×t/800t
Q=200W
と算出できます。
200Vと400Vでジュール熱を比較してみる
電源電圧V=200Vのとき、ジュール熱Q=50Wでした。
一方、電源電圧V=400Vとなったときのジュール熱Qは200Wになりましたので、計算すると200W/50Wで、実に4倍まで発熱量が跳ね上がることが分かりました。
この結果は、コイルに流れる電流値から計算しても同じになります。
200Wの発熱量と言うと、電気ストーブの弱と同じぐらいの熱さに相当しますので、相当モーターの中が熱くなることがお分かり頂けたのではないでしょうか。

火傷するぐらい熱いですね
ステップ③:コイルの絶縁材料が溶ける

モーターには、コイルに使われている絶縁材料ごとに「耐熱クラス」という基準が定められています。
これは、コイルの絶縁がどの温度まで劣化せずに使えるかを示したもので、代表的な耐熱クラスとしては A種・E種・B種・F種・H種 などがあります。
| 耐熱クラス | 許容最高温度 |
| A種 | 105℃ |
| E種 | 120℃ |
| B種 | 130℃ |
| F種 | 155℃ |
| H種 | 180℃ |

一般的なモーターはB種が多いかな
200Wのジュール熱を発生させるコイルは、言わば”電熱線(ヒーター)”です。
そう考えると、上記の耐熱温度では耐えることができませんよね。
ステップ④:コイルが絶縁破壊を起こして焼損する

モーターのコイルはエナメル線と呼ばれる銅線をグルグル巻いて作られています。
本来このエナメル線は、線同士が触れ合っても電気が流れないよう、エナメル被服という絶縁材料で保護されています。
しかし、コイルが発熱して絶縁材料が溶けて無くなってしまうと、線同士触れ合っている部分に電流が直接流れるようになってしまいます。
このような状態になることを「絶縁破壊」と言い、絶縁破壊が起きた部分ではとても大きな電流が流れるため、その部分に集中して熱が発生して最終的にはコイルの焼損に至ります。

いわゆる”ショート”というやつですね
ステップ⑤:モーターが壊れる

コイルの焼損にまで至ったモーターは、正常に動作することができなくなるため、まるで力尽きたかのように動かなくなります。
以上が、400Vの電源を接続されてしまった200V仕様のモーターがたどる末路になります。

こうなってしまったら、コイルを巻き替えるか廃棄するしかないね
その他の疑問について

その他の疑問についてお答えしていきます。
200V仕様のモーターに400Vを接続したら、スピードが倍になるの?
200V仕様のモーターに400Vを接続したとき、「回転速度も倍になるのか?」という疑問に思う方もいるかもしれません。
しかし、この答えは”NO“です。
三相交流モーターの回転速度は電圧によって変わるわけではなく、電源の周波数かモーターの極数のいずれかによって決まります。
なので、たとえ電圧が200Vから400Vに上がったとしても、周波数が同じであれば回転速度は変わりません。
ただし、直流モーターの場合は電圧が倍になると回転速度も倍になるので、その点には注意が必要です。

ミニ四駆のモーターに9Vの電池を繋いだ時、とんでもないスピードで一瞬走ったあとにすぐ力尽きるのを見たことがあります

400V仕様のモーターに200Vの電源電圧を接続するとどうなるの?
400V仕様のモーターに200Vを接続すると次のような状態になります。
- モーターのトルク(回転する力)が約1/4に低下する
- コイルに流れる電流が約半分になる
- コイルに発生するジュール熱が約1/4になる
この項では詳しくは説明しませんが、計算上は上記のように性能が大きく低下するため、モーターとしてはまともに機能させることができません。
ただし、ジュール熱が原因でモーターが焼損するということはありませんので、まだこちらのパターンの方が被害は少なくて済みそうですね。

やっぱり、電源電圧とモーターの仕様は間違えないのが一番だね
まとめ

以上、200V仕様のモーターに400Vの電源を繋いだらどうなるか?について解説しました。
結論としては、定格を超える電圧が加わることによって、コイルに異常な電流が流れるだけでなく、ジュール熱による発熱によってコイルの巻線が絶縁破壊を起こし、最終的には短時間のうちに焼損に至ります。
モーターは一度焼損してしまうと使うことができなくなります、銘板や回路図などを必ずチェックし、誤ってモーターを焼損させてしまわないよう、接続時の確認は慎重に行いましょう。








