皆さんの職場ではワイヤーロープを使われていますでしょうか?
ワイヤーロープは建設現場や工場などの産業現場はもちろん、私たちの身の回りのものに至るまで、実に様々な分野で使われています。
ひでくんロープウェイやスキーリフトにもワイヤーロープは使われているよね
ワイヤーロープは言ってしまえば「鉄の針金をより合わせてロープ状にしたのもの」ではありますが、用途に合わせて多種多様な種類のものが作られています。
この記事ではそんなワイヤーロープの基礎知識について、種類と特徴を解説していきながら、ポイントを分かりやすく解説していきます。



ワイヤーロープは用途に応じた使い分けが重要です、まずは基本的なところから覚えていきましょう
ワイヤーロープってどんな構造なの?
引用先:東京製綱(ワイヤーロープの概要)
ワイヤーロープは一般的に上図のような構造をしています。
「素線」と呼ばれる”針金”のような鋼線をより合わせたものを「ストランド」と言い、このストランドを「繊維心(心綱)」の周りにより合わせることで、「ワイヤーロープ」が形成されます。
構造としては綱引き等で使用する「3打ちロープ」と似ていますね。


各部位の詳細について見ていきましょう。
繊維心(心綱)
ワイヤーロープの中心には「心綱(しんづな)」と呼ばれる部位があり、一般的なワイヤーロープはこの心綱に繊維心が用いられています。
繊維心は麻心とも呼ばれ、天然繊維や合成繊維などをより合わせて作られています。
この繊維心には油(グリース)がたっぷりと染み込ませてあり、ワイヤーロープに荷重が掛かると中から少しずつ油が出てきます。
この油によって、ワイヤーロープの素線同士がこすれて摩耗したり錆びたりしにくいようになっているわけですね。
一般的なワイヤーロープは心綱に繊維心を用いますが、鋼線をより合わせた鋼心を用いる「IWRC」という種類もあります。
鋼心は麻のような繊維ではなく鉄で出来た心綱であるため、ワイヤーロープの太さは同じで引っ張り強度を強くしたい場合に用いられます。



麻心入りと鋼心入りの違いは後の項目で説明しています
素線
素線はワイヤーロープのストランドを構成している細い鋼鉄製の針金のことを言います。
表面は亜鉛メッキ処理が施されているのが一般的で、銀色のキラキラとした光沢があるのが特徴です。
ストランド
ストランドは素線を複数本(19本、24本 等)より合わせたもののことを言います。
このストランドをさらに数本使用し、繊維心などの心綱の周りにより合わせることで、1本のワイヤーロープが完成します。
ストランドの本数はワイヤーロープの用途によっても異なりますが、一般的には6本のストランドを使用して作られていることが多いです。
引用先:東京製綱株式会社(エレベータ用ワイヤーロープ)



エレベータ用のワイヤーロープには8本ストランドのものもあるみたいだね
ワイヤーロープの種類ってどんなものがあるの?


ワイヤーロープはJIS規格によって様々な種類が規格化されています。
交差より(点接触より)
「交差より」は同じ線径(同じ太さ)の素線をより合わせたストランドで作られているワイヤーロープです。
素線同士の接触面積が少なく“点”で接触していることから、「点接触より」とも呼ばれています。
交差よりのワイヤーロープは、プーリーなどで繰り返しの曲げられる動きに弱く、内部断線が起きやすいというデメリットがある反面、構造がとてもシンプルなことから、安価で入手しやすいというメリットもあります。
そのため、頻繁に動かす場所よりも鉄道の架線や構造物の支えなど、何かを固定するための用途に向いているワイヤーロープと言えるでしょう。
交差よりのワイヤーロープは「〇×〇〇」で表現され、最初の数字がストランドの数で次の数が素線の数を表します。
6×19
引用先:株式会社ヤマカツ(JISワイヤーロープの種類・規格)
19本の素線をより合わせたストランド6本を繊維心により合わせたワイヤーロープです。
6×24
引用先:株式会社ヤマカツ(JISワイヤーロープの種類・規格)
こちらのワイヤーロープは、24本の素線をより合わせたストランド6本を繊維心により合わせたワイヤーロープです。
6×37
引用先:株式会社ヤマカツ(JISワイヤーロープの種類・規格)
こちらのワイヤーロープは、37本の素線をより合わせたストランド6本を繊維心により合わせたワイヤーロープです。



断面図を見ると、確かに素線の太さが同じだね
平行より(線接触より)
「平行より」は異なる線径の素線を用いて、内側の素線の谷間に外側の素線が重なるようにより合わせたものを言います。
言いかえると、太い素線と素線の間にできた隙間に細い素線を敷き詰めて、隙間が無くなるようにストランドをより合わせて作ったのが平行よりのワイヤーロープです。
平行よりのワイヤーロープは、内側と外側の素線が隙間なくピッタリと接触しているので、素線同士が「点」ではなく「線(面)」で接触しているのが特徴です。
この構造によって、単位当たりの接触面積が交差より(点接触より)のものと比べて大きくなるため、耐疲労性に優れるというメリットがあります。
平行よりのワイヤーロープは「〇×Fi(〇〇)」や「〇×WS(〇〇)」といったアルファベットが入っているのが一般的です。
平行よりのワイヤーロープには、ストランドの構造の違いによって大きく4種類が存在し、それぞれ「フィラー形」・「シール形」・「ウォーリントン形」・「ウォーリントンシール形」があります。



クレーンやエレベータなど、頻繁に動くものの用途に最適です
フィラー形(Fi)
引用先:株式会社ヤマカツ(JISワイヤーロープの種類・規格)6×Fi(25)
「フィラー形」は1本の素線の周りにある内側素線と内側素線の2倍の外側素線で構成され、隙間に細いフィラー線を入れてより合わせたワイヤーロープです。
図の「6×Fi(25)」では1本の素線の周りに6本の素線と、その外側に6×2=12本の素線が配置されており、隙間には6本の細いフィラー線が入っています。
1本の素線と6本の素線、その周りに12本の素線と6本のフィラー線なので、1+6+12+6=25、そのような構成のストランドが6本より合わさっているので、「6×Fi(25)」という表現になります。
このフィラー形は柔軟性や耐摩耗性のバランスが優れていて、一番広範囲に使用されているワイヤーロープです。
クレーン関係のワイヤーロープもこのフィラー形がとても多いですね。



僕の職場で1番使われているワイヤーロープもこのフィラー形ですね
シール形(S)
引用先:株式会社ヤマカツ(JISワイヤーロープの種類・規格)6×S(19)
シール形のワイヤーロープは、1本の素線周りにある内側素線と外側素線が同じ数だけ配置されており、内側素線が素線同士の隙間にピッタリと収まっているのが特徴です。
図の「6×S(19)」では1本の素線の周りに細い9本の素線と、太い9本の素線が配置されているので、1+9+9=19で「6×S(19)」という表現になります。
このワイヤーロープは外側の素線が太いことから摩耗に強いという特徴があります。
その為、耐摩耗性が求められるエレベーターなどの用途によく用いられます。
ウォーリントン形(W)
引用先:株式会社ヤマカツ(JISワイヤーロープの種類・規格)6×W(19)
「ウォーリントン形」は「フィラー形」と同じように、1本の素線の周りに内側素線と内側素線の2倍の外側素線で構成されているのですが、外側素線の線径を変えることで素線同士の隙間を無くすという構造になっています。
このウォーリントン形のワイヤーロープは各素線の外径差が少ない為、引張強度が高いといったメリットがあるのですが、外側素線に細い素線があることから耐摩耗性に劣るといったデメリットも存在します。
現在ではあまり使用頻度が高くないワイヤーロープです。
ウォーリントンシール形(WS)
引用先:株式会社ヤマカツ(JISワイヤーロープの種類・規格)6×WS(36)
「ウォーリントンシール形」はウォーリントン形とシール形を組み合わせたワイヤーロープで、太い同径の外側素線の中に線径の異なる素線を隙間なく配置した構造となっています。
まさにウォーリントン形とシール形の良いとこ取りという感じですね。
柔軟性だけでなく優れた耐摩耗性や引張強度を両立したとても高機能なワイヤーロープで、過酷な環境で使用される規模の大きなクレーンに用いられるなど、その使用範囲は多岐に渡ります。
ただし、素線数が多いことなどから価格が他のワイヤーロープと比べて割高になりやすいというデメリットも存在します。



素線の径の違いだけで、こんなに特性が変わるんだね
構造の違いだけじゃない!ワイヤーロープのより方について
引用先:トラデポ(ロープ・ストランドのより方)
ワイヤーロープには、より方の方向によって4種類あります。
普通Zより
引用先:もえろ!タマカケ魂(ワイヤーロープ)
「普通Zより」は、次のようなより方をされているワイヤーロープのことを言います。
- ロープのより方向が反時計回りによられている
- ストランドのより方向がロープのより方向と逆になっている
ワイヤーロープを横から見ると、より方向が「Z」の字を書くときの方向と同じなので「Zより」と呼ばれています。
ワイヤーロープを注文するときに、特に指定をしなければ普通Zよりになるのが一般的です。
普通Zよりのワイヤーロープは、ロープとストランドのより方向が逆になっていることから、相殺されて”より”が戻りにくいという特徴があります。
その為、非常に扱いやすく玉掛けからクレーン等の設備まで幅広い用途で使用されています。



僕が使用しているワイヤーロープもほとんどが「普通Zより」です
普通Sより
引用先:もえろ!タマカケ魂(ワイヤーロープ)
「普通Sより」のより方は次の通りです。
- ロープのより方向が時計回りによられている
- ストランドのより方向がロープのより方向と逆になっている
普通Sより場合は、ワイヤーロープを横から見ると「S」字を書くときの方向とストランドのより方向が同じなので「Sより」と呼ばれます。
この普通Sよりについても、ロープとストランドのより方向が逆なので、取り扱いがしやすいワイヤーロープとなっています。



普通Sよりは普通Zよりとセットで使われることが多いね
ラングZより
引用先:もえろ!タマカケ魂(ワイヤーロープ)
「ラングZより」は、ロープのより方向とストランドのより方向が同じ反時計回りのワイヤーロープです。
- ロープのより方向が反時計回りによられている
- ストランドのより方向がロープのより方向と同じ
ロープとストランドのより方向が同じである為、よりが戻りやすく型崩れしやすいというデメリットがあるのですが、「普通より」よりも素線が外側に長く露出しているため、接触面積が広いぶん圧力が分散されて摩耗しにくいというメリットがあります。
また柔軟性があるため、繰り返しの曲げにも強いという特徴も合わせ持っています。
荷重が掛かるとロープがほどける方向に回転しようとするため、使用には充分注意をする必要がありますが、上手く条件さえ整えてあげればとても有効的に活用できるワイヤーロープです。



ロープのより方ひとつで、ここまで特性が変わるんですね!
ラングSより
引用先:もえろ!タマカケ魂(ワイヤーロープ)
「ラングSより」は、ロープのより方向とストランドのより方向が同じ時計回りのワイヤーロープです。
- ロープのより方向が時計回りによられている
- ストランドのより方向がロープのより方向と同じ
「ラングZより」とメリット・デメリットは基本的に同じです。
「Zより」と「Sより」はどうやって使い分けるの?
一般的な使い方では「普通Zより」が用いられるのが一般的ですが、「Sより」はどのような場合に用いられるのでしょうか?
よく用いられる使い方で多いのが、ワイヤーロープを複数掛けしたクレーンのフックですね。


写真のフックは2本のワイヤーロープをフックのシーブに通して吊り上げていますが、2本のワイヤーロープをどちらも「Zより」もしくは「Sより」にしてしまうと、1方向にフックが回転してしまうという現象が発生します。
これを防ぐために一方をZより、もう一方をSよりという組み合わせにします。
こうすることで、”より”が戻ろうとする力が相殺されて互いの回転力が打ち消し合うため、フックが回転するのを防止することが出来ます。
フックが回転してしまうととても使いにくいですからね。
設備において吊り上げ用途にワイヤーロープを偶数本使用する場合は、ZよりとSよりを組み合わせて使用するのが一般的です。



こうやって使い分けるんだね
引張強さによって種類が異なる|ワイヤーロープの種別
ワイヤーロープには、引張強さによって下の表のような5種類の種別があります。
| 種別 | 公称引張強さ(N/㎟) |
| E種 | 1,320 |
| G種 | 1,470 |
| A種 | 1,620 |
| B種 | 1,770 |
| T種(特種) | 1,910 |
これらの種別はワイヤーロープに使用される素線の引張強さの違いによって分類され、E種→G種→A種→B種→T種となるにつれてワイヤーロープの破断荷重が大きくなります。



例えば、A種であれば1㎟当たり約165kg、B種であれば1㎟当たり約181kgまで耐えられるという計算になります
つまり、同じワイヤー径でもG種のワイヤーロープよりB種のワイヤーロープの方が破断に強いワイヤーロープということですね。
昔はT種の代わりにC種というものが存在しましたが、今ではその規格が無くなってT種に変わっています。
C種があった頃は1本100m切り売りといった買い方が出来たのですが、T種は最低ロットが何千mだったりするので、ちょっと買いにくくなっているのが難点だったりしますね。



クレーン関係では主にB種が使われているよ
ワイヤーロープの心綱(しんづな)にも種類がある|特性の違い
引用先:フジロープ機材商会(意外とご存じないこと)左が繊維心入り、右が鋼心入り
ワイヤーロープの中心にある心綱(しんづな)には大きく分けて2種類あります。
繊維心入りワイヤーロープ
ワイヤーロープの心綱に繊維心(麻心)を使用しているのが「繊維心入り」ワイヤーロープです。
繊維心のワイヤーロープは柔軟性に富んでいるので、玉掛け用途やクレーンの吊り上げ用途など、多くの現場や設備で幅広く使用されています。
繊維心のワイヤーロープは以下の特徴があります。
- ワイヤーロープの柔軟性が高い
- 繊維心に含まれたグリースにより潤滑性が高い
- 繊維心に含まれたグリースにより中が錆びにくい
- 鋼心入りワイヤーロープと比較すると破断荷重が劣る
- ワイヤーロープの伸びが発生しやすい
繊維心には油(グリース)がたっぷりと含ませてあり、ワイヤーロープが引っ張られることで少しずつ中から染み出してきます。
これによりストランド同士の潤滑やロープ本体の錆びの発生防止に効力を発揮しています。
一方で、破断荷重はどうしても鋼心入りのワイヤーロープよりは劣るほか、使っているとワイヤーロープ自体の伸びが発生しやすいというデメリットもあります。



繊維心入りのワイヤーロープは、取替作業を行う際に扱いやすいというメリットもありますね
鋼心入りワイヤーロープ(IWRC)
心綱に繊維心ではなく鋼線材を使用したものが「鋼心入り」ワイヤーロープです。
鋼心にも様々な種類があるのですが、一般的には独立した1本のロープを心に使用した「IWRC」が最もよく使われています。
ワイヤーロープの中にもう一本細いワイヤーロープがあると考えると、イメージしやすいのではないでしょうか。
鋼心入りワイヤーロープは繊維心入りワイヤーロープと比べて以下のような特徴が有ります。
- 破断荷重が大きい
- ワイヤーロープが潰れにくい
- ワイヤーロープの伸びや径の減少が少ない
- 同径のワイヤーロープと比べて重い
- 同径のワイヤーロープと比べて柔軟性に劣る
- 中まで油分が浸透しにくい(中が摩耗・錆が発生しやすい)
IWRCの選定には大きな破断荷重というメリットだけに目を向けるのではなく、重量やワイヤーロープが通るシーブへの影響など、周囲への様々な状況を考慮する必要があります。
また、IWRCのワイヤーロープは潤滑面で繊維心のワイヤーロープよりも劣るので、定期的なロープ油塗布などのメンテナンスを確実に行うようにしましょう。



錆や摩耗を防ぐためにも、潤滑はとても大切だよ!
一手間で特性が向上する!|プレテンション加工
ワイヤーロープには「プレテンション加工」という、製作したワイヤーロープにもう一手間加える加工方法があります。
引用先:日本スエーヂ工業株式会社(ワイヤーロープのプレテンション加工)
プレテンション加工とは、上の図のような引張装置でワイヤーロープを所定の荷重で引っ張ったり元に戻したりを繰り返すという処置のことを言います。
プレ(前もって)テンション(張力をかける)加工というわけですね。
この一手間をワイヤーロープに加えることで以下のようなメリットがあります。
- ワイヤーロープの初期伸びを最小限に抑える
- 径のバラツキなどの変形が起きにくくなる
- 素線の配列が安定するため、素線の耐疲労性が良くなる
ワイヤーロープの様々な特性向上が見込めるプレテンション加工ですが、一方でワイヤーロープの製作納期が長くなることや価格アップといったデメリットもあります。
とはいえ、初期伸びが小さいことによる施工時の調整のしやすさや、使用中の安定性など、享受できるメリットが非常に大きいので、可能であれば積極活用して頂ければと思います。
ちなみに、プレテンション加工を行っても破断荷重自体は変わらないので注意して下さい。



大きなクレーンのワイヤーロープはプレテンション加工品が多いですね
まとめ


以上、ワイヤーロープの種類や特徴についてお伝えしてきました。
ワイヤーロープは特性や使用用途に応じて、ここでご紹介したもの以外にも非常に沢山の種類が存在します。
是非本記事を参考に、ご自分の用途に合ったワイヤーロープを選んでいただけたら幸いです。
<本記事のおさらい>
- ワイヤーロープには「交差より」と「平行より」がある
- ワイヤーロープのより方には「Zより」と「Sより」がある
- 構成される素線の引張強さによって、種別が5種類に分かれる
- 心綱には「繊維心」と「鋼心(IWRC)」がある
- プレテンション加工でワイヤーロープの特性向上が見込める


















