突然ですが、「アンカーボルト」ってご存じでしょうか?
建設関係や土木関係の仕事をしている方でしたらご存じかと思いますが、そうでない方にはあまり聞きなじみが無いかもしれません。
僕の仕事はどちらかというと建設業に近い仕事になるのですが、「アンカーボルト」を使う場面は非常に多いです。
アンカーボルトにはいくつか種類があって、大きく分けると「メカニカルアンカー」と「ケミカルアンカー」の2種類が存在します。
これらのアンカーボルトはそれぞれに特徴やメリット・デメリットがあり、用途や場面によって適切に使い分けることが非常に重要になります。
この記事では、アンカーボルトの基本的な仕組みを解説するとともに、メカニカルアンカーとケミカルアンカーそれぞれのメリット・デメリットについても詳しく解説していきます。
ひでくんどの場面でどんなアンカーボルトを選択するかは非常に重要だよね



それぞれの特性を理解して正しく使い分けましょう!
そもそもアンカーボルトってなに?


アンカーボルトとは、床や壁や天井になどに機器や構造物を固定する為に、コンクリートに埋め込んで使用するボルトのことを言います。
コンクリートに打ち込む方法はいくつかあって、コンクリートを流し込む前にボルトを差し込んでおく「まえ施工アンカー(先付けアンカー)」と、固まったコンクリートに穴を明けてボルトを取り付ける「あと施工アンカー」があります。



コンクリートが固まる”前”に施工するか、固まった”後“に施工するかの違いですね
まえ施工アンカー(先付けアンカー)


「まえ施工アンカー」は、写真のようにボルトをあらかじめ所定の位置に設置しておき、その後にコンクリートを流し込むことで、ボルトをコンクリートの中に埋め込む施工方法です。
コンクリート硬化後にドリルで穴を明ける必要がないため、施工の手間を省くことができるメリットがあります。



取付位置が決まっていて、コンクリートを流し込む前のタイミングだったら採用できる施工方法だね
あと施工アンカー


「あと施工アンカー」は、硬化したコンクリートにドリルで穴を明けて、その穴にアンカーボルト取り付ける施工方法です。
現場合わせで機器や構造物を据え付ける場合や、既存のコンクリートの床面に機器を増設する場合など、位置を細かく調整しながら自由度の高いアンカーボルトの設置ができるというメリットがある反面、施工に手間がかかるというデメリットも存在します。
実は、あと施工アンカーの施工方法にも種類があって、それが今回解説する「メカニカルアンカー」と「ケミカルアンカー」です。



次からこれらのアンカーボルトの違いについて解説していきます
あと施工アンカーの種類|メカニカルアンカーとケミカルアンカーについて


メカニカルアンカーとケミカルアンカーの特徴について解説していきます。
メカニカルアンカー


メカニカルアンカーとは、”金属系アンカー”とも呼ばれ、ボルト本体の金属部分を利用して穴に固定する構造のものを言います。
メカニカルアンカーの多くは、穴の中で金属部分が拡張して穴の側面に引っ掛かることでボルトが固定されます。
メカニカルアンカーで最もポピュラーなものとして挙げられるのが、「芯棒打ち込み式アンカー」というメカニカルアンカーです。



「オールアンカー」と言うとピンとくる方も多いんじゃないかな
芯棒打ち込み式アンカーは、先端に芯棒と呼ばれる”釘”が備わったアンカーボルトで、穴を明けたコンクリートにこのアンカーボルトを差し込み、ハンマーで芯棒を叩くことで先端が”たこウインナー”のように拡張してボルトが固定されるという構造になっています。







アンカーボルトの先端が開いてコンクリートに食い込むことで固定されるよ
この芯棒打ち込み式アンカーは、コンクリートに穴を明けることができれば、ハンマー1本でアンカーボルトを打ち込むことができます。
そのため、あと施工アンカーの中でも比較的簡単かつ素早く施工できるというメリットがあります。
しかも、ある程度の固着力でしっかりとコンクリートに固定出来るので、安全柵やフェンスの設置等、幅広い用途で使用されています。



メカニカルアンカーの中では一番使われているのではないでしょうか。
他にも、メカニカルアンカーには芯棒打ち込み式以外に次のようなタイプがあります。
スリーブ打ち込み式アンカー
スリーブ打ち込み式アンカーとは、アンカーボルトの外側にある”スリーブ”を専用の打ち込み棒を介してハンマーで叩くことで、スリーブが広がってコンクリートの穴に固定されるという仕組みのアンカーボルトです。
芯棒打ち込み式と違って専用の打ち込み棒が必要になるというデメリットがありますが、ドリルに取り付ける専用のホルダーを使うと、穴明けと同時にボルトを打ち込むことができます。



道具さえあれば、施工の手間を省くことができるんだね
締め付け式アンカー
締め付け式アンカーとは、コンクリートに明けた穴にアンカーボルトを挿入したあと、トルクレンチなどでナットを締め付けることで先端が拡張し、穴に固定ができるという仕組みのアンカーボルトです。
引用先:日本建設あと施工アンカー協会(金属系アンカー施工手順)



メカニカルアンカーは固定する仕組みによって沢山種類があります
ケミカルアンカー


ケミカルアンカーとは、コンクリートに明けた穴へ”接着剤”を使ってボルトを固定する仕組みのアンカーボルトです。
ケミカルアンカーで使用する接着剤は、アロンアルファやボンドのような生易しいものではなく、主剤と硬化剤を混合させることで化学反応を起こし、短時間で高い接着強度を発揮する樹脂素材が使われています。
この接着剤がコンクリートの穴とボルトとの隙間に行き渡って硬化することで、ボルトが強力に固定されます。



硬化した接着剤はまるで石のように固くなるよ
ケミカルアンカーでは、メカニカルアンカーとは違い普通のずん切りボルトが一般的によく使用されます。


ケミカルアンカーにも施工方法の違いによっていくつか種類があって、現場の状況に応じて使い分けられています。
代表的なものをご紹介します。
注入式


注入式は、コンクリートの穴に専用の薬液を注入したあと、ボルトを挿入して固着するまで待つ方式です。
引用先:旭化成株式会社(ARケミカルセッター CI-400無機セメント注入型タイプ)
メーカーから専用のカートリッジやディスペンサー(注入する道具)が販売されていますので、別で容器に薬液を入れて調合するなどの手間が発生せず、比較的施工性も高いです。



市販のコーキングガンが使えるものもあるみたいですね
カプセル式
引用先:旭化成株式会社(ARケミカルセッター)
カプセル式は、主剤や硬化剤がガラス管や棒状の袋に入っているものを使用する方式です。
施工するときは、コンクリートの穴にカプセルを入れたあと、ずん切りボルトを差し込んで回転させて穴の中で撹拌(かくはん)します。
すると、割れた(破れた)カプセルから薬液が漏れ出し、穴の中で混ざって化学反応が起き、しばらく待つと硬化してボルトが強固に固定されます。
ずん切りボルトを回転させるのに充電ドライバー等が必要になりますが、特別な道工具を使わなくても施工できる点などがメリットの方式です。



僕の現場では、だいたいカプセル式を使っているね
各アンカーボルトの特徴について


各アンカーボルトの特徴についてそれぞれの違いをまとめてみました。
アンカーボルトの引張強度
- メカニカルアンカー:〇
- ケミカルアンカー:◎
引張強度については、実はケミカルアンカーの方が上です。
同サイズ(太さ)のものであれば、メカニカルアンカーと比べてケミカルアンカーの方が約2倍程度の引張強度を持っているという特徴があります。
理由は、メカニカルアンカーは穴の側面に食い込んで固定されているのに対し、ケミカルアンカーの場合は石のように固い接着剤で、ボルトとコンクリートが一体化しているためです。
固着力を優先してアンカーボルトを設置したい場合は、ケミカルアンカーの方に軍配が上がります。
施工のしやすさ
- メカニカルアンカー:◎
- ケミカルアンカー:△
施工のしやすさについては、メカニカルアンカーの方に軍配が上がります。
コンクリートに穴を開けるまでは両者同じですが、メカニカルアンカーの場合は穴にアンカーボルトを入れてハンマーで叩くだけで施工が完了します。
一方、ケミカルアンカーの場合は、薬液を注入したりカプセルを入れて中でグルグル回転させるなど、施工に何かと道具や手間が掛かります。
加えて、メカニカルアンカーは施工直後に100%の固着力を得られるのに対し、ケミカルアンカーの場合は定められた硬化時間まで待たないと100%の固着力を得ることができません。
引張強度をあまり必要としない場合は、メカニカルアンカーで施工する方が手間や時間が掛からないでしょう。



ケミカルアンカーは完全に硬化するまで触らないよう注意が必要です
据え付けるものの位置決めのしやすさ
- メカニカルアンカー:◎
- ケミカルアンカー:△
アンカーボルトは基本的にコンクリートの床や壁に機械や柵等を固定するために施工します。
その機器や柵を据え付ける時に、ある程度位置決めした後に微調整してから固定しますが、その位置決めのしやすさが両者で異なります。
例えばメカニカルアンカーの場合、M12であればコンクリートに明ける穴のサイズはφ12.7mm、M16であればφ17mmとなります。
機器を固定する際、取付部に明けられている穴はM12であればφ14mm、M16であればφ18mmぐらいが一般的です。
そのため、据え付けたい位置に機器を先に置いてから、取付け穴にコンクリートドリルをそのまま通して穴明けを行うことができます。
つまり、あらかじめアンカーボルトの施工位置を正確に墨出ししておかなくても、機器を位置決めしてからアンカーボルトの施工が可能というわけですね。



現物合わせでアンカーボルトの施工ができるということだね
一方、ケミカルアンカーの場合は、M12であれば下穴のサイズはφ14.5mmになり、M16であればφ19mmとなります。
よって、機器の取付け穴がコンクリートに明ける穴よりも小さくなるため、そのままではコンクリートドリルが通らないという事態が発生します。
そうなると、据え付ける機器を実際に置いた状態で現物合わせをすることができず、あらかじめアンカーボルトの施工位置を正確に墨出ししておくことが必要になります。
やはり現物合わせで施工できる方が、据え付け後に「位置が合わない」といったトラブルが起こりにくいと言えるでしょう。
据え付け時の位置決めのしやすさ、据え付け後の誤差やミスの発生が起こりにくいのはメカニカルアンカーの方ではないでしょうか。



ケミカルアンカーでも、機器の取付穴を大きめにしておけば現物合わせの施工ができる場合もあります
手に入りやすさ
- メカニカルアンカー:◎
- ケミカルアンカー:〇
ホームセンターでも、Proショップのような専門的なところであれば、メカニカルアンカーもケミカルアンカーも販売しているケースが多いです。
M12〜M16ぐらいのサイズのものであれば比較的容易に手に入ります。
価格
- メカニカルアンカー:◎
- ケミカルアンカー:△
ケミカルアンカーの方が部品点数が多い(寸切りボルト+接着薬液)ので、やはり1本当たりの価格は高くなります。
M12の場合、芯棒打ち込み式アンカー(オールアンカー)で1本当たり約¥100円程で手に入りますが、ケミカルアンカーだと1本(寸切り+接着薬液)で¥300円程になります。



ケミカルアンカーの方が価格が高いのは仕方ないね
メカニカルアンカーのメリット・デメリットについて


メカニカルアンカーのメリット・デメリットについてお伝えします。
メカニカルアンカーのメリット
素早く施工できる
コンクリートに穴を開けることさえ出来れば、あとはアンカーボルトを入れてハンマーで打撃するだけになります。
そのため、数が多い場合でも比較的早く施工することが可能になります。
施工して直ぐに固定できる
メカニカルアンカーはコンクリートの穴の側面に引っ掛かるようにして固定されるので、正しく施工すれば施工した瞬間から最大引張強度を発揮することができます。
価格が安い
1本当たりの価格が安いので、要求される引張強度に問題が無ければ施工する本数が多いほどケミカルアンカーよりコストダウンが図れます。
施工時の天候や環境に影響されにくい
暑い時期や寒い時期、雨の日や氷点下の冷凍庫の中等、周囲の環境にあまり影響されることなく施工することができます。
メカニカルアンカーのデメリット
大きな引張強度は得られない
固定の仕組み上、ケミカルアンカーと比較すると引張強度は劣ります。
また、メカニカルアンカーは最大サイズがM20ぐらいである為、太さで引張強度を稼ごうとしても限界があります。
振動や衝撃に弱い
電車やクレーンのレールの固定等、振動や衝撃荷重が繰り返し発生するような箇所には不利です。
振動や衝撃がアンカーボルトに加わると、コンクリートと接している面が割れてしまい、抜けや緩みが発生しやすくなるというデメリットがあります。
フェンスや地上側の制御盤など、振動や衝撃が少ない機器の固定に使用するようにしましょう。
ケミカルアンカーのメリット・デメリットについて


つづいて、ケミカルアンカーのメリット・デメリットについてお伝えします。
ケミカルアンカーのメリット
高い引張強度が得られる
同サイズのメカニカルアンカーと比較して、高い引張強度を得られることから、比較的大きな機械の据え付けや天井からの吊り下げ等に威力を発揮します。
M36のケミカルアンカーともなれば、最大引張荷重は33tにもなります。
振動や衝撃に強い
ケミカルアンカーは振動や衝撃にも強い為、工作機械や走行する搬送設備等、振動が常に発生する機器の固定に適しています。
また、コンクリート上のレールを走行するクレーンについても、レールの固定はケミカルアンカーが必ず用いられます。
特に大型のクレーンになると、走行時の振動に加え、レールの継ぎ目を通過するときの衝撃が非常に大きくなるため、使用するアンカーボルトはケミカルアンカー一択と言っても過言ではありません。
特殊な環境下でも使える種類が存在する
水中や冷凍庫内などの低温環境下においても、使用条件や種類は限られますが、対応可能なケミカルアンカーが販売されています。
ケミカルアンカーのデメリット
施工に手間が掛かる
ケミカルアンカーはメカニカルアンカーと違って、施工に必要な道工具類がやや多くなります。
例えば、注入式であれば薬液の入ったカートリッジと注入用のディスペンサー、カプセル式であれば薬液の入ったカプセルに撹拌用に電動ドリルが必須になります。
そのため、穴明け後にそれらの道具を使って施工する工程が増え、1本当たりに掛かる施工時間や手間がメカニカルアンカーよりも多くなります。
コンクリートに開けた穴の清掃をしっかり行う必要がある
コンクリートにコンクリートドリルで穴を明けると、中にコンクリート粉が必ず溜まります。
メカニカルアンカーの場合は、軽く中の粉を清掃する程度でも施工できることが多いですが、ケミカルアンカーの場合はそうはいきません。
ケミカルアンカーを施工する際、穴に溜まった粉を取り除くことはもちろんのこと、側面をブラシ等で清掃して出来る限り粉が残らないように清掃することが必要不可欠です。
この清掃作業を怠ると、接着剤がコンクリートと十分に密着せず、本来の引張強度を十分に得られない場合があります。
施工ミスを防ぐためにも、穴の清掃は入念に行いましょう。
コンクリート下の鉄筋に干渉しやすい
メカニカルアンカーと比較して、ケミカルアンカーはより深くコンクリートに穴を明ける必要があります。
その際の障害として発生しやすいのが、コンクリート下にある鉄筋です。
ケミカルアンカーを施工するために穴を深く掘ろうとしたとき、途中で鉄筋にドリルが当たってそれ以上掘り進めることができないというケースがよく発生します。
しかも鉄筋はかなり硬い為、コンクリートドリルでそのまま穴を掘ろうとしても全く歯が立ちません。
そのため、もし施工場所の下にある鉄筋が邪魔になる場合は、穴を明ける位置を変更するか、鉄筋に到達するまでの穴の深さで施工するかの2択を迫られることになります。
施工後のボルトの根元を都度掃除する必要がある
ケミカルアンカーを施工した直後、ボルトを挿入した穴の隙間から接着剤がはみ出してくることがあります。
この接着剤が根元で固まってしまうと、機器を取り付ける際に邪魔になることがあるため、硬化する前に1本1本掃除する手間が発生します。
硬化するまで手待ちになる
ケミカルアンカーは、施工した後に定められた硬化時間を取る必要があります。
中の接着剤が硬化するまではボルトに触ることができないため、硬化時間=手待ち時間となります。
この硬化時間は気温によって変わり、夏のような気温が高い時期は時間が短くなりますが、冬などの気温が低くなる時期は硬化時間は長くなってしまいます。
長期の保存ができない
ケミカルアンカーの接着用溶剤には賞味期限があり、一般的な保存期間は1〜2年、長いものでも3年ぐらいが相場です。
そのため、工事で大量に余ったケミカルアンカーの接着用溶剤を保存する場合は、有効期限を管理する必要があります。
有効期限が切れたケミカルアンカーは使用出来ませんので注意して下さい。
メカニカルアンカーとケミカルアンカーの特性を理解し、用途に応じた使い分けを心掛けよう!
まとめ


以上、メカニカルアンカーとケミカルアンカーの違いについて、特徴やメリット・デメリットを踏まえて解説しました。
どちらのアンカーボルトにも得手不得手が有り、状況に応じた使い分けが非常に重要です。
双方の特性を理解して、上手く現場に取り入れて頂ければと思います。
現場でアンカーボルトを使用されることが多い方にとって、少しでも参考になるような内容であれば幸いです。





